「蜘蛛の巣のなかへ」1
トマス・H・クックの作品は私のメルマガ(「海外ミステリを読む」)で「PERIL」(邦題「孤独な鳥がうたうとき」)までの14作品は取り上げましたが、この作品は当時は翻訳が出来ていなかったので触れませんでした。
19才で故郷を捨てた男が、20数年後に一人暮らしの父親の死を看取る為に戻って来て、父の死までの3ヶ月をどう過ごしたかを描いた作品です。彼は家族を持たないことを決心し、教師をしながら一人で生きています。そんな息子を父親は「なぜ、そんなことを望むんだ?ひとりで生きて行くなんて」と非難します。それに対して彼は「家族がいた時、僕の人生はどうだったか思い知らされたかも知れないよ」と答えるのです。
愛もなく、憎み合う父と母。殺人事件を引き起こし留置所で首つり自殺をした弟。彼との結婚を断った初恋の女性。彼はそういう状況から逃げ出したのですが、戻って来た彼の前に、その逃げ出した過去が立ちふさがることになります。
「世界の歴史を知らずに生きるのはたやすいが、自分自身の歴史を知らずに生きていくのは容易なことではない」
町を牛耳る保安官親子。父の過去。弟の自殺。初恋の女性。小さな町の人間模様が悲しく乱舞する物語です。
この作品は文春文庫から村松 潔氏の訳で出ています。クックの作品を読んだことがない方で、これから読んでみたいと思われる方は、私のHPの「ミステリ資料室」にメルマガのバックナンバーがありますので、参考にして下さい。私は決して結末は明かさない主義なので、その種の心配はありません。

